皆さん、最近本を読んでいますか?
私は学生時代、東野圭吾さんの新作を追いかけたり、湊かなえさんの「イヤミス」にゾクゾクしたりと、かなりの読書好きでした。でも、社会人になって仕事に追われるうちに、いつの間にか本を手に取る心の余裕がなくなっていて……。
気づけば、最後に読んだ本が思い出せないくらい、読書から遠ざかる毎日を過ごしていました。
そんな私が、最近また本を読み始めたんです。
きっかけは、不妊治療との両立のために働き方をパートタイムに変えたこと。少しだけ時間に余裕ができて、「何か新しい趣味を始めたいな」と思ったんですよね。
治療中は、どうしても気持ちが不安定になりがちです。SNSを見ては「あの子はもう二人目なんだ……」と勝手に落ち込んだり、「なんで自分だけがこんな思いを」とネガティブな沼にズブズブとはまってしまったり。
今の私に必要なのは、心をかき乱す刺激的な物語ではなく、そっと隣に座って肩を貸してくれるような、温かい物語でした。
今回は、そんな私の心に深く染み込んだ5冊の本をご紹介します。不妊治療中の方はもちろん、人生の踊り場で「このままでいいのかな」と立ち止まっている同世代の女性に、ぜひ届いてほしい言葉たちが詰まっています。
治療中の「言えない本音」を代弁してくれる本
『カフネ』阿部 暁子
タイトルの「カフネ(Cafuné)」とは、ブラジル・ポルトガル語で「愛する人の髪にそっと指を通す仕草」という意味があるそうです。その響きだけで、トゲトゲしていた心が丸くなるのを感じました。
この物語が描く不妊治療の描写は、とにかくリアルで、そして切ないです。期待しては裏切られる毎月の絶望、出口の見えないトンネルを歩くような感覚……主人公の心の揺れが、今の自分の状況と重なりすぎて、読んでいて何度も胸が熱くなりました。自分のことのように「わかる、わかるよ」と頷きながら読み進めたのは久しぶりです。
何より素晴らしいのは、痛みを抱えながらも「本当に大切にしたい人は誰か」を見つめ直そうとする主人公の強さです。「母親」になることだけがすべてじゃない、一人の女性として誰かを愛し、慈しむことの尊さを教えてくれます。読み終わる頃には、冷えていた心が「カフネ」という言葉のように、優しく撫でられたような気持ちになれました。
『夜空に浮かぶ欠けた月たち』窪 美澄
心療内科を舞台に、傷ついた人々の再生を描くこの物語。中でも「長年の治療の末に高齢出産したけれど、産後うつになり、我が子を可愛いと思えずに苦しむ女性」のエピソードは、衝撃とともに私の深いところに刺さりました。
不妊治療をしていると、「授かること」がゴールになってしまいがちです。でも、その先にも続くリアルな苦しみがあること、そしてそれは決して「母親失格」ではないことを、この本は静かに語ってくれます。「あんなに望んだはずなのに、どうして」と自分を責める彼女の姿に、完璧主義で自分を追い込みがちな今の自分が重なりました。
「人間は誰だって心に不調を抱える可能性があって、それはちっともおかしなことじゃない」。この本がくれるメッセージは、不妊治療の待ち時間の長い不安を、確かな安心感に変えてくれました。自分の「欠けている部分」を無理に埋めなくていい、そのままの自分でいいんだと、許されたような気がします。
「二人の家族」の形を信じさせてくれる本
『僕らのごはんは明日でまっている』瀬尾 まいこ
独特な空気感を持つ主人公と、明るくちょっとひねくれたヒロイン。二人のやりとりは軽快で笑えるのですが、物語が家族の形に踏み込む中盤、物語は一変します。ずっと「子どもを産んで自分の家族を作ること」を当たり前の未来として信じてきたヒロインが、病気で子宮を摘出しなければならなくなったシーン。その喪失感と絶望の描写は、読んでいて胸が千切れるようでした。
でも、その絶望の淵にいる彼女に主人公がかけた言葉が、本当に素晴らしいんです。彼は、彼女から「当たり前の未来」が消えたとしても、少しも揺らぎませんでした。「一人をめいいっぱい愛して、二人で家族になろう」。その決意に、涙が止まりませんでした。
私自身、「子どもがいない人生」を想像しては怖くなることがあります。でも、この本を読んで、原点に立ち返ることができました。一番大切なのは、今隣にいるパートナー。子どもがいてもいなくても、この人を愛し、二人で笑い合える人生もまた、最高の「家族」なんだと心から思えました。パートナーをもっと大切にしよう、と思わせてくれる一冊です。
停滞している人生を動かす本
『婚活マエストロ』宮島 未奈
こちらは不妊治療とは直接関係のない物語です。主人公は40歳の冴えない男性ライター。家でこたつ記事(ネットの情報をまとめただけの記事)を書いて僅かな収入を得て、このままじゃダメだと分かっていながら、なんとなく毎日をやり過ごしてしまう……。そんな彼の「情けないけれどリアルな焦燥感」が、今の私に驚くほどリンクしました。
特に、大きな失敗をしたわけじゃないけれど、何かに挑戦する勇気もなくて、気づけば周囲から取り残されているような感覚。これはキャリアや人生に悩む同世代の女性なら、誰もが少しは持っている感情ではないでしょうか。でも、そんな彼が「婚活イベントの取材」という小さな一歩から、泥臭く人生を動かしていく姿には、理屈抜きで勇気をもらえます。
不妊治療で生活のすべてが制限されているような気分になっていた私に、「どんな状況からでも、行動一つで人生は変えられる!」と笑いながら背中を叩いてくれたような一冊です。
『リカバリー・カバヒコ』青山 美智子
「自分の治したい部分と同じ部分を撫でると回復する」という都市伝説のある、カバの遊具「カバヒコ」。その公園に集まる人々の連作短編集です。青山美智子さんの描く世界は、いつも優しくて、それでいて鋭い気づきをくれます。
この物語の主人公たちは、魔法のように悩みが消えるわけではありません。カバヒコに触れることで、自分でも気づいていなかった「本当の願い」や「心の癖」に向き合い、自らの手で少しずつリカバリー(回復)していくんです。そのプロセスがとても丁寧で、「ああ、私も私のペースで、自分を治していけばいいんだな」と、張り詰めていた気持ちがふっと軽くなりました。
扱われている悩みも、日常の中のちょっとしたつまずき、という感じで(少し学生さん向けかもしれません)、深刻になりすぎずに読めるのがいいところ。
2時間もあればサクッと読めるので、疲れて帰ってきた日の夜に読むのにピッタリです。
最後に:物語は心を休ませる「居場所」
久しぶりに読書を再開して思ったのは、「物語の世界に没頭する時間は、自分を救う」ということです。不妊治療中は、良くも悪くも自分の体や心のことばかり考えてしまい、逃げ場がなくなってしまいますよね。
でも、本を開けば、別の誰かの人生を旅して、新しい視点や温かい言葉をもらうことができます。現実の問題はすぐには解決しなくても、読み終わった後の心は、読み始める前より少しだけ強く、優しくなれている気がします。
今回ご紹介した5冊の中に、今のあなたに寄り添ってくれる一冊があれば嬉しいです。皆さんも、不妊治療の合間や、日々の生活の中で「この本に救われた!」という作品があれば、ぜひコメントで教えてください。

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